大阪地方裁判所 平成元年(わ)1392号 判決 1989年11月28日
本店の所在地
大阪府寝屋川市池田東町七番一一号
近畿観光 株式会社
(右代表者代表取締役 安本正明)
本籍
大阪府寝屋川市池田東町七番
住居
同市池田東町一〇番八号
会社役員
安本正明
昭和二〇年一〇月二五日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤村輝子、同長谷透各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人近畿観光株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人安本正明を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人安本正明に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人近畿観光株式会社(以下、被告会社という。)は、大阪府寝屋川市池田東町七番一一号に本店を置き、遊技場の経営等を目的とする資本金一〇〇〇万円の法人であり、被告人安本正明(以下、被告人という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一 被告会社の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が二三〇八万五一五円(別紙(一)修正損益計算書参照)あつたにもかかわらず、架空の経費を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六〇年五月三一日、大阪府枚方市大垣内町二丁目九番九号所在の所轄枚方税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五六三万五七三八円でこれに対する法人税額が一七四万六八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額九〇〇万九六〇〇円と右申告税額との差額七二六万二八〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ
第二 被告会社の昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が七四二六万三五円(別紙(二)修正損益計算書参照)あつたにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六一年五月三一日、前記枚方税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七七八万五一八六円でこれに対する法人税額が二四一万三三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額三一一七万五〇〇円と右申告税額との差額二八七五万七二〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ
第三 被告会社の昭和六一年四月一日から同六二年三月三一日までの事業年度における実際所得金額が一億一一五六万七二二四円(別紙(三)修正損益計算書参照)あつたにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六二年五月三〇日、前記枚方税務署おいて、同税務署長に対し、その所得金額が七七四万六四九三円でこれに対する法人税額が二四〇万一二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もつて不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額四七三二万四五〇〇円と右申告税額との差額四四九二万三三〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
括弧内の算用数字は、証拠等関係カード検察官請求分の請求番号を示す。
判示全部の事実について
一 被告会社代表者兼被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書
一 収税官吏の被告人に対する質問てん末書一七通(51ないし55、57ないし68)
一 収税官吏の冨田春三(八通、25、30、31、32、34、35、37、39)及び中村博に対する各質問てん末書
一 被告会社作成の証明書
一 収税官吏作成の査察官調査書七通(8、12、ないし15、20、21)
一 被告会社に関する商業登記簿謄本
判示第一及び第二の事実について
一 収税官吏の河原由紀子に対する質問てん末書
一 収税官吏作成の査察官調査書二通(9、10)
判示第二及び第三の事実について
一 収税官吏の被告人に対する質問てん末書(56)
一 収税官吏の冨田春三に対する質問てん末書(27)
一 収税官吏作成の査察官調査書(16)
判示第一の事実について
一 収税官吏の黒川洋に対する質問てん末書
一 収税官吏作成の脱税額計算書(1)
一 枚方税務署長作成の証明書(法人税確定申告書写添付のもの、4)
判示第二の事実について
一 収税官吏の冨田春三(36)及び西田達雄に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の脱税額計算書(2)
一 枚方税務署長作成の証明書(法人税確定申告書写添付のもの、5)
判示第三の事実について
一 収税官吏の冨田春三(26)及び田中豊次に対する各質問てん末書
一 収税官吏作成の脱税額計算書(3)
一 枚方税務署長作成の証明書(法人税確定申告書写添付のもの、6)
一 収税官吏作成の査察官調査書七通(11、17、18、19、22、23、24)
(法令の適用)
被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、いずれも法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告会社を統括する被告人が、その個人的融資の失敗による損失を補填するなどのため判示犯行に及び、結果として三事業年度にわたり合計八〇九四万円余りの法人税を免れたという事案であつて、そのほ脱税額は右のとおり多額である上、右ほ脱の動機とても格別酌むべき事情とはなり得ず、更には、ほ脱率が全体で約九二・五パーセントと極めて高率であることなどに鑑みると、被告人らの刑事責任はたやすく看過することができない。
しかしながら、他方、本件ほ脱の方法は必ずしも巧妙、悪質とまでは言えないこと、現在被告人は罪を反省し、今後再犯を繰り返さない旨誓つていること、被告会社においては、本件ほ脱にかかる本税、延滞税を既に完納し、重加算税についても逐次納付の予定であることなど、被告人らのために斟酌すべき事情も存するので、これらの諸点をも考慮に入れて、被告人らをそれぞれ主文掲記の刑に処し、なお、被告人に対してはその刑の執行を猶予するのが相当と考えた。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 白井万久)
別紙(一)
修正損益計算書
(近畿観光株式会社)
自 昭和59年4月1日
至 昭和60年3月31日
<省略>
別紙(二)
修正損益計算書
(近畿観光株式会社)
自 昭和60年4月1日
至 昭和61年3月31日
<省略>
別紙(三)
修正損益計算書
(近畿観光株式会社)
自 昭和61年4月1日
至 昭和62年3月31日
<省略>
別紙(四)
税額計算書
近畿観光株式会社
<省略>